「ひとり酒」のはじまり——結婚、転職、そして“自分だけの晩酌時間”
転職して、同じ会社で働いていた夫と結婚した頃のことです。
片道1時間強の電車通勤、当たり前の4時間残業――終業22時を過ぎて、毎晩のようにくたくたで駅に向かう日々でした。それでも前職の超ブラックなサービス残業よりは「マシ」とすら思っていた自分がいました。
そんな過酷な毎日でしたが、実は帰り道に楽しみもありました。
4時間残業仲間と「今日はお花見列車だね」なんて豪語して、コンビニで缶ビールや缶チューハイ、ツマミを買い込み、ほとんど無人の22時過ぎの電車で乾杯する――それがちょっとした息抜きになっていました。
20代の私は、まだ「ひとりで飲む」ことには抵抗がありました。
周りの30代男性たちは当たり前のようにひとり飲みを楽しんでいて、正直なところ「私も“おじさんのキグルミ”があれば、同じように自然体でひとり飲みできるのに…」なんて本気で思っていました。
その頃の私は、「私から酒とタバコを取ったら何も残らない」——今思えば冗談や強がりに聞こえるかもしれませんが、当時の私は本気でそう信じていたように思います。

ひとり飲みへの転機
そんなある日、会社の大きな製品トラブルで夜通し働き、明け方、会社の玄関で夫とすれ違って「行ってらっしゃい」と声を交わし、私は自宅へ戻りました。
家に着いたのは日曜の昼間。
でもクタクタで、頭も身体も興奮していて…「どうしても寝付けそうにない」。
ふと、人生で初めて“昼間ひとりで自宅にいる”という状況で、缶ビールを開けてしまったのです。
それまでは「お酒は誰かと一緒に、夜に飲むもの」と思い込んでいた私。
20代女性の自分には“昼間一人で飲む”という発想はなかったはずなのに、
そのときはただ「眠るために」「この孤独や疲れを埋めるために」と、
昼間の静かな部屋でひとり、“自分だけの晩酌”を始めていた――
これが、私にとって初めての「昼間の一人酒」でした。

女性の孤独と「酒が居場所になる」感覚
仕事も家庭も頑張って、でも本当は“どこにも自分の居心地の良さ”がない。
お酒とタバコだけが「私らしさ」みたいになってしまって、自信が持てずに過ごしていた――ふり返れば、あの電車の“お花見列車”や、当時本気で口にしていた『私から酒とタバコを取ったら何も残らない』――今思えば強がり交じりの“自己紹介”には、寂しさや切実さが滲んでいたのだと思います。
「自分だけの時間も居場所も見つからなかったからこそ、静かな部屋でひとり缶ビールを開ける…そんな習慣が“自分を守る方法”になっていたのかもしれません。

今、あの日を思い返して
あのとき、仲間と騒ぐのも、ひとり家で飲むのも、それぞれに心の拠り所でした。
だけど、そこから“お酒との距離”が自分の中で変わり始めていった――今はそう感じています。
「誰かの楽しみ」や「ストレス解消」に見えても、その奥に“女性ならではの生きづらさ”や“本当は寂しい心”があったということ。
あの頃の自分を、今やっと優しく思い返すことができるようになりました。
